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鈍感家庭教師
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「…なんか今日暗いで?どうしたん?」


不意に先生が私の顔を覗き込んで尋ねた。
あまり言いたくなかったが、隠しても仕方ないし、私は小さな声で俯きがちに言った。



「…数学の追試ひっかかりました。」



「はぁ?!どこの範囲のテストで?」

先生の反応は予想通りだった。


「…指数対数」

私が再び呟くように言うと


「この前散々やった所やん。」

そう言って、先生はため息をついた。


「どこ間違えたん?」

「3の2乗なのに2×3したり、引き算間違えたり…」


「うっわ、もったいな!そりゃあ、落ち込みたくもなるわ」


「……。」


なかなか立ち直れない私は、言葉を返せず、しばらく沈黙が続いた。部屋の中には時計の針の音と、外を走る車の音だけが聞こえていた。


すると、先生は突然

「まぁ…もう過ぎたことやし、しゃーないやん。次頑張り。」

そう言って、私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。


今まで男の人にそんなことされたことのなかった私は、みるみるうちに顔が赤くなっていくのがわかった。
しかし、先生はさらりと


「あれ?なんか顔赤くない?
まぁえぇか。じゃあ追試の勉強しよー。テスト問題ある?」

と言って、いつものように授業を進めていった。


からかわれているのか、鈍感なだけなのか。
それが頭から離れず、私は全く集中できなかった。





授業の最後、先生は片付けをしながら言った。


「あ、もし再追試になったら、今日ほど優しくはせぇへんからな?」


何気ない一言だが、私には十分な破壊力だった。



「じゃ、追試頑張りー。」

先生はいつもの人懐っこい笑顔でそう言って帰っていった。



私は、ほてる顔に両手を当て

「からかわれているのか、鈍感なのか…。」

と呟いた。
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